HOME > 個性に着目した株式による事業承継

個性に着目した株式による事業承継

はじめに
会社法では、非公開会社において、人的繋がり強いことを意識して、個々の個性に着目した株式(属人的株式)の導入を認めています(会社法109条2項)。この属人的株式は、個々の株式ごとに内容について定めることが可能となります。ただ、全ての内容について株式ごとに異なる内容を定めることはできません。会社法が株主・株式の個性に着目した内容を定めることを許容しているのは、次の3つです。

剰余金(配当)を受ける権利
残余財産の分配を受ける権利
株主総会における議決権

上記の3つについては、個々の株主ごとに異なる内容を定めることが可能となります。ある株主については、複数の議決権を与える・別の株主においては全く議決権を与えない・一定の場合についてのみ議決権が復活するなど自由に設定することが可能です(定款の自治)。

もっとも、剰余金の配当・残余財産を全く与えない旨を定めることはできません(会社法105条2項)。ただし、剰余金の配当について、優劣・額について異なる設定をすることは可能です。

この属人的な定めを用いることにより、非公開会社(法律上の中小企業)においては、柔軟な株主対策・資金調達・事業承継・経営承継・組織再編(M&A)を行うことが可能となります。その都度、事情に合わせた自由な設計を行うことができます。

▼ 属人的株式の活用方法 ▼ 種類株式との違い 
▼ 属人的株式の導入要件 ▼ 結びにかえて

属人的株式の活用方法

特に議決権について自由に定められることは、運用上のメリットが大きいといえます。会社法においては、株主総会の過半数により議決が成立します(普通決議)。重要な事項については、3分の2以上の要件が必要とされる事項もあります(特別決議)。上手く議決権の割合をコントロールすることができれば、スムーズな業務執行・事業承継・経営承継が可能となります。

中でもVIP株・比重株・ヒーロー株と呼ばれる株式があります。このVIP株・比重株・ヒーロー株は会社法に直接規定がある名称ではありません。いずれも属人的定めのある議決権に関する株式です。

特定の地位に有する者が保有する株式について、議決権が異なる株式。例えば、代表取締役が保有している株式は、1株について2個の議決権があるなどの規定をすることが可能です。特徴は、地位を離れた場合には、もとの議決権に戻ることです。代表取締役の地位にある場合は、1株について2個の議決権が認められていても、代表取締役を退任すると1株について1個の議決権に戻ります。このVIP株は、あくまでも特定の地位にある場合に効力が生じます。
特定の株式について議決権が異なる株式。これは地位ではなく、株式自体に着目した株式です。特定の株式については、1株について2個の議決権を与えるなどの定めを行えます。特定の地位に付与される株式では無いことから、誰が保有しても同様の効果があります。すなわち、Aさんが保有しても、Bさんが保有しても同様の効果があります。
特定の事態が生じた場合に議決権が激増することを定めた株式。通常は、特に何もない株式だけど、特定の事態(自由に設定可能)が生じた場合に、事態を乗り切るために設計されます。まさにピンチの時に出現するヒーローそのものです。
例えば、大多数の保有する株主が事故・病気・意識不明などの事態となれば、株主総会を開催することが不可能となります。このような事態の時のみ議決権が激増すれば、株主総会を滞りなく開催することが可能です。特定の事態が終息した場合は、もとの株式に戻ります。

これだけでも、個々の株主の事情に合わせて、議決権をコントロールすることができます。
もっとも、属人的な定め自体が強力な効果が発生します。使い方を間違えると、自己に不利となる危険性もあります。導入する場合には、後々の事も十分に考慮して、導入する必要があります。

種類株式との違い

種類株式は、株式の個性に着目した株式です。同じ種類の株式においては、同様の取扱いを行う必要があります。すなわち、個々人の個性に着目した取扱いを行うことはできません。種類株式においても、属人的株式と同様な内容のある株式が存在します。議決権制限種類株式・拒否権付種類株式などがあります。もっとも属人的株式と種類株式を併用することにより更なる事情に合わせた設計を行うことが可能です。

種類株式は、定款記載事項であり、登記事項です。すなわち、登記簿を見るとどのような種類株式が導入されているのか一目瞭然です。また公開会社(上場会社ではない)でも導入することが可能となります。属人的株式は、定款において定める必要はありますが、登記事項ではありません。登記簿からは判断することはできません。非公開会社(全ての株式に譲渡制限がある会社)においてのみ導入することが可能です。

属人的株式の導入要件

属人的株式を導入するには、定款を変更する必要があります。定款に記載しなければ、効力が認められません。個々の株式・株主の個性に着目することなり、株主間での取扱いが異なるので、通常より株主総会での決議要件が厳しくなっています。具体的には、総株主の半数が出席して4分の3以上の賛成が必要となります。これはあくまでも会社法が定める要件です。実務上の導入においては、できれば総株主の同意を得ることが望ましいと言えます。

【事業承継・経営承継における活用】
属人的株式・種類株式は、同族経営会社・オーナー型会社(法律上の中小企業)において、事業承継・経営承継において威力を発揮します。このような同族経営・オーナー型企業においては、株主・役員の個性が重視されているケースがほとんどです。

また、代表取締役(オーナー)の持株比率・個性が強い場合が多く見られます。このような業態において、株式の個性・内容に着目できることは、個々の事情に沿った、柔軟な承継対策を導入することが可能です。

事業承継・経営承継においては、一気に進めることは現実的に不可能です。ある程度長い時間を掛けて、少しずつ権限の移譲・会社組織の再編成を行うことになります。後継者に少しずつ株式を移譲させる、役員選任できる株式において一定の経営を監視・監督する、拒否権付株式(黄金株)を導入することにより、後見的に経営をサポートするなどの細かい事情を上手くサポートすることが可能です。

もっとも、このような個性の強い株式は、注意するべきポイントがあります。種類株式は、誰の手に渡っても同様に効力があります。好ましくない方に渡ると逆に経営権を握られる可能性があります。相続などで拡散しないような対策も同時に行うべきと言えます。 同様のことは、種類株式においても言えます。特に拒否権付株式(黄金株)や役員選任権付株式などが第三者(相続人など)に渡ると簡単に会社を支配されてしまう危険性があります。これらの拒否権付株式(黄金株)・役員選任権付株式は、導入する際に後々の処理について、 しっかりと考えて導入する必要があります。

【考えられるリスク・不安要素の一例】
Bが経営に不慣れであり、間違った方向に舵取りを行う可能性
Aが突然の交通事故で意識不明・認知症・行方不明などにより議決権が行使できなくなる可能性
遺留分減殺請求により、Bに対してスムーズな株式の譲渡が行われない。
【対策の一例】
Bが誤った舵取り行わないように一定の事項について監督(後見)する意味を込めて、拒否権付株式を導入する。あまり多くに口出しするとBが委縮して、思い切った経営判断を行うことができなくなる可能性がある。そこで、拒否できる事項を合併などの重要な組織改編・多額の借財・重要に使用人の選任・解任などの事項に限定することにより、それ以外は口出しを行わないようにする。また、VIP株を導入することにより、少数の株式保有で、Aが後見的な立場での経営をサポートする。
Aが意識不明などになった場合は、株主総会を開催することが不可能となる。このような事態にそなえて、1株はヒーロー株にして、信頼のできる者に譲渡しておく。Aの不測の事態が生じた時に、議決権が激増するように設定。臨時的な舵取りを行わせる。
遺留分減殺請求は、請求された時点で、効力が発生します。当然に会社の株式も相続の対象となりBに全てを譲渡することはできません。完全無議決権株式を発行し、二男・三男に譲渡する旨の遺言書を作成する。議決権を奪う代わりに優先的に配当を与えるなどの手当てを行うことも考慮する。現金などがある場合は、株式以外を二男・三男に相続させる。遺留分を考慮した、相続財産の分配をあらかじめ策定。

結びにかえて

オーナー型企業・同族経営企業などでは、人的な繋がりが強く比較的個性が重視されます。このような場合は、個々の個性に着目した株式を用いることで、事情にマッチした設計を行うことが可能です。もっとも、強い個性を持つが故に、全く別の使われ方をされると逆効果になります。もろ刃の剣であることも忘れてはなりません。

ただ、このような効果は、事前に封じる必要があります。すなわち、メリットを最大限活用できるようにデメリットを予め封じることが可能です。しっかりとした設計を行うことにより、段階的に後継者に経営承継を行ったり、資金調達を行ったり、事業拡大の設計が可能となります。属人的株式は、活用の場面・幅が拡大しています。この属人的株式を使わない手はありません。

具体的な種類株式・属人的株式の導入方法・定款の記載・活用方法などはお気軽にお問合せください。

↑上へ